「自分とは一体何者なのだろう?」誰もが一度はこんな悩みにぶつかったことがあるはずです。私も考えたことがあります。
この「自分らしさ」への問いかけを、心理学の世界で「アイデンティティ(自我同一性)」と名付けたのが、アメリカの発達心理学者エリク・H・エリクソンです。
ピアジェが「知能」の発達に注目したのに対し、エリクソンは「心と社会との関わり」に注目しました。そして、人間は子ども時代だけでなく、「生まれてから死ぬまで、一生涯をかけて発達し続ける」という画期的な理論(ライフサイクル理論)を打ち立てたのです。
この記事では、エリクソンが提唱した「8つの発達段階」と、それぞれの時期に乗り越えるべき「心の課題」について、解説していきます。
エリクソン理論の核:「心理社会的危機(発達課題)」とは?

エリクソンの理論を読み解く上で、重要なキーワードが「心理社会的危機」です。
エリクソンは、人生を8つのステージに分け、それぞれの時期には「必ず直面する2つの相反する感情(ポジティブとネガティブ)の葛藤」があると考えました。これを「危機」と呼びます。 ここでの「危機」とは、危険な出来事という意味ではなく、「人間が大きく成長するためのターニングポイント(分岐点)」という意味です。
この葛藤をうまく乗り越えることで、人はそれぞれの時期に特有の「生きる力」を獲得し、次のステージへと進んでいくことができます。
8つの発達段階(ライフサイクル)とは
それでは、エリクソンが描いた人生の8つのステージを順番に見ていきましょう。
第1段階:乳児期(0歳〜1歳頃)
【課題】基本的信頼 vs 不信
【獲得する力】希望
人生の土台となる最も重要な時期です。お腹が空いた、おむつが不快だと泣いて訴えたとき、親や養育者が優しく応えてくれることで、赤ちゃんは「この世界は安全だ」「自分は愛される価値がある」という「基本的信頼感」を獲得します。逆に、放置されると世界に対する「不信感」が根付いてしまいます。
この基本的信頼感があるかないかで結構変わってくる気がします。私の見てきた子どもたちがそうなだけかもしれませんが。
第2段階:幼児期前期(1歳〜3歳頃)
【課題】自律性 vs 恥・疑惑
【獲得する力】意志
歩けるようになり、言葉を話し始める時期です。「自分でやる!」という自己主張が激しくなる(イヤイヤ期)のもこの頃です。大人が見守りながら自由に挑戦させることで「自律性」が育ちます。失敗を過剰に叱りすぎると、「自分にはできないかも」という恥や疑惑の念を抱くようになります。
第3段階:幼児期後期(3歳〜6歳頃)
【課題】自主性 vs 罪悪感
【獲得する力】目的
「なぜ?」「どうして?」と好奇心が爆発し、ごっこ遊びなどを通じて自分から行動を起こす時期です。子どもの自発的な行動を認めると「自主性」が育ちます。逆に「危ないからダメ」「うるさい」と行動を制限しすぎると、自ら行動することに対して「罪悪感」を覚えるようになります。
第4段階:児童期(6歳〜12歳頃)
【課題】勤勉性 vs 劣等感
【獲得する力】有能感
小学生の時期です。勉強やスポーツ、友人関係など、評価される場面が増えます。努力して結果を出し、周囲から褒められることで「自分はできる!」という「勤勉性」を獲得します。 ここでつまづくと深い「劣等感」を抱きやすくなります。家庭や児童福祉施設などで、大人が結果だけでなくプロセスを承認し、小さな「できた」を積み重ねる関わりが、子どもが劣等感を乗り越え有能感を得るための大きな鍵になります。
第5段階:青年期(12歳〜20歳頃)
【課題】アイデンティティ(自我同一性) vs アイデンティティの拡散
【獲得する力】忠誠心
エリクソン理論の最大の山場です。「自分はどんな人間か」「将来どう生きたいか」を激しく悩み、社会の中での自分の役割を見つけ出す「アイデンティティの確立」が課題となります。 これが見つからず「自分が何者かわからない」状態を「アイデンティティの拡散」と呼びます。反抗期やモラトリアム(大人になるための猶予期間)も、このアイデンティティを獲得するために必要な葛藤のプロセスです。
第6段階:成人期前期(20代〜30代頃)
【課題】親密性 vs 孤立
【獲得する力】愛
社会人になり、アイデンティティを確立した上で、次は他者(恋人、配偶者、親友など)と深い関係を築く時期です。自分をさらけ出し、相手を受け入れることで「親密性」を獲得します。関係を築くのを恐れると、社会的な「孤立」に陥ります。
第7段階:成人期後期(30代〜60代頃)
【課題】世代性(生殖性) vs 停滞
【獲得する力】世話
自分自身の成長だけでなく、「次の世代を育て、社会に貢献する」ことがテーマになる時期です。これを「世代性(ジェネラティビティ)」と呼びます。 子育てはもちろんですが、現場で実習生の指導にあたったり、職場で後輩を育成し知識を受け継いだりすることは、まさにこの世代性を豊かに満たすプロセスです。他者や社会へ関心を向けないと、自己中心的な「停滞」に陥ります。
第8段階:老年期(65歳以降〜)
【課題】自己統合 vs 絶望 【獲得する力】賢さ(英知)
人生の最終ステージです。体力の衰えや大切な人との死別などを経験しながら、これまでの自分の人生を振り返ります。「色々なことがあったが、私の人生はこれで良かった」と自分の人生を肯定的に受け入れることを「自己統合」と言います。逆に「人生をやり直したい」と後悔に苛まれると「絶望」に陥ります。
まとめ
エリクソンの理論が素晴らしいのは、「過去の課題は、後からでもやり直せる」と示唆している点です。
例えば、乳児期に「基本的信頼」を十分に得られなかった子どもであっても、その後の人生で温かく受容してくれる大人や支援者と出会うことで、信頼感を取り戻し、アイデンティティを再構築していくことが可能です。
悲観的な私はなかなか難しいと思っていますけどね。しかし可能性はゼロではありません。
目の前の人が今、人生のどのステージにいて、どんな「危機(葛藤)」と戦っているのか。このライフサイクルの視点を持つことで、私たちは自分自身の生き方を肯定し、また他者に対してより深く温かい支援ができるようになるのです。
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