ストレンジ・シチュエーション法(Strange Situation Procedure)とは、発達心理学者のメアリー・エインズワース(Mary Ainsworth)が1970年代に開発した、乳幼児の愛着スタイル(アタッチメント・スタイル)を測定するための標準化された観察手法です。
この方法では、1歳前後の幼児とその養育者(主に母親)を対象に、見知らぬ環境における分離と再会の場面で子どもがどのように反応するかを観察し、子どもと養育者の愛着関係の質を評価します。
メアリー・エインズワース(Mary Ainsworth)とは。
背景と目的
エインズワースは、同僚であるジョン・ボウルビィ(John Bowlby)の愛着理論を実証的に裏付けるため、この観察法を考案しました。彼女はウガンダやバルチモアでの家庭観察を経て、幼児がストレス下でどのように養育者に依存し、また安心を得るかを観察することが、愛着の質を測る上で有効だと考えました。
ストレンジ・シチュエーション法は、心理学・保育・児童福祉など多くの分野で用いられ、子どもの情緒的発達とその背景にある関係性を理解するための有力な手段とされています。
構成と進行:8つのエピソード
実験はおよそ20分間で行われ、以下のように8つのステップで構成されています。
- 母子同室(1分):母親と子どもが部屋に入り、適応する様子を観察
- 自由遊び(3分):子どもが部屋のおもちゃで自由に遊ぶ。母親は静かにそばにいる
- 見知らぬ人の登場(2分):ストレンジャー(実験者)が入室し、母親と話した後、子どもと接触
- 第1回別離(3分):母親が退出。子どもが見知らぬ人と二人になる
- 第1回再会(3分):母親が戻り、ストレンジャーが退出
- 第2回別離(3分):母親が再び退出。子どもは一人で過ごす
- ストレンジャーの再登場(2分):見知らぬ人が再び入室し、子どもと接触
- 第2回再会(3分):母親が戻り、観察終了
各エピソードにおける子どもの反応(泣く・遊ぶ・近づく・避けるなど)を細かく記録・分析します。
観察ポイント
- 養育者との分離時の反応(泣き方・追い方・探索行動の停止など)
- 養育者との再会時の反応(甘える・怒る・無視する・混乱するなど)
- 見知らぬ人への反応(不安・警戒・好奇心など)
- 養育者がそばにいるときの遊び方(安心して探索しているか)
分類される愛着スタイル(エインズワースによる3分類+後年の拡張)
| タイプ | 特徴 |
|---|---|
| 安定型(B型) | 母親がいなくなると不安になるが、戻ると甘えて落ち着く。安心感があり、自信をもって探索行動をする。 |
| 回避型(A型) | 母親が出ても反応が薄く、戻ってきても感情を見せない。感情を抑える傾向がある。 |
| アンビバレント型(C型) | 母親が離れると強く泣き、戻っても怒ったり抱きついたりと不安定な行動を示す。依存が強い。 |
| 無秩序型(D型)※ | 行動に一貫性がなく、再会時に混乱、凍りつき、奇妙な動きなどが見られる。トラウマ・虐待の影響も。 |
※ 無秩序型は、1980年代にメインとソロモンによって提唱された追加分類です。
意義と活用分野
- 心理学研究:愛着の科学的研究を支える代表的手法
- 保育・育児支援:子どもの行動理解と関わり方の指針
- カウンセリング:愛着障害やトラウマへのアセスメントとして応用
- 児童福祉:安定した人間関係の構築支援や里親制度の評価に活用
限界と補足
- 主に「母子関係」に基づく評価で、父親や他の養育者との関係性は十分に考慮されていない
- 欧米文化に基づく手法のため、文化差(例:日本やアフリカではC型が多く見られる傾向)もある
- 一時的な気分や環境によって反応が変わる場合もあるため、包括的評価が必要
参考資料・関連理論
- Mary Ainsworth (1978) 『Patterns of Attachment』
- John Bowlby (1969–1980) 『Attachment and Loss』シリーズ
- メイン & ソロモン(1986):無秩序型の分類追加
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